非電化珈琲焙煎器                  
        

無農薬有機肥料のコーヒー栽培に人生を捧げるカルロスさん。

カルロスさんのために珈琲焙煎器が発明された。  

 

無農薬・有機栽培で丹念に育てられた極上のコーヒー生豆を手に入れて、自分好みに煎って、挽いて、淹れて飲む――絶品です。誰でも知っていることなのですが、誰もやっていません。できのいい珈琲焙煎器が手にはいらないからです。  
 
 
面倒くさい‥‥というのも、もう一つの理由かもしれません。20分もかかる焙煎器や、直ぐに焦げてしまう焙煎器ならあるのですが「だれでも短時間に美味しく煎ることができる」焙煎器はありません。世界中探してもありません。そこで「3分間でムラ無く美味しく煎ることができる」非電化珈琲焙煎器を発明することにしました。

この発明は至って簡単‥‥と思ったのですが、意外にてこずりました(世界中探しても無かったはずです)。熱伝導率が低い材料(セラミックとか)を使えば熱を満遍無く伝えることができるので、煎りむらは生じませんが時間が掛かりすぎます(20分くらい)。これでは手首が痛くなってしまいます。逆に熱伝導率が高い材料(銅とか)を使うと、接触面だけが焦げてしまって、悲惨なコーヒーになってしまいます。そこで、熱がこもり過ぎると適当に逃がして容器内部の温度を適切に保つメカニズムを考えてみました。豆の同じところだけが容器と接していては困りますから、手を軽く振ると豆が満遍無く回転するメカニズムも考えてみました。

やっと完成したのが、非電化珈琲焙煎器(商品名“煎り上手”)です。誰でも3〜4分で、ムラ無く美味しく煎ることができます(プロ以上?)。挽く道具や淹れる道具はどこにでもあります。これで「煎りたて・挽き立て・淹れ立て」の絶品のコーヒーを愉しめることになりました。“煎りたて・挽き立て・淹れたて”を経験した多くの友人が、みんな病み付きになりました。コーヒー嫌いだった私の妻もコーヒー好きに変わってしまいました。

実は、この発明の動機はブラジルのカルロスさん(ジャカランダ農場主)と中村隆市さん(株式会社ウィンドファーム代表。カルロスさんの日本のパートナー)との出会いです。農薬や化学肥料メーカー、大量にコーヒー豆を生産できる巨大農場と、それを買い占める商社だけが儲かるように作られた近代農業のシステムそのものへの激しい憤りを、カルロスさんは抱いていました。しかも、化学肥料を多用することは、一時的には安定した収穫を約束してくれますが、最終的には土壌のバランスを崩し、地力を衰えさせます。病害虫が発生し、結局は殺虫剤や殺菌剤に頼るという悪循環に陥ってしまいます。それに比べて有機農業は自然を痛めません。多くの手間が必要とされるため、たくさんの人々の仕事をつくることもできます。25年間にわたる血の滲むような苦労の末、1996年には86ヘクタールの農園すべてで有機栽培コーヒーの生産を可能にしました。カルロスさんの長年の努力が実り、オーガニックコーヒーはブラジルで市民権を得て、徐々に増えているとはいうものの、その比率はたったの0.1%(エッ!)。 カルロスさんと中村隆市さんは本当にいい人なのですが、大変な苦労をしていました。無農薬有機栽培はとてつもなく高くつくのに、同じ値段でしか仕入れてもらえないからです。
 
 煎った後のコーヒーは、たちまち酸化してしまいます。酸化したものは身体に良くないし不味い――ですから、煎った後のコーヒー豆は、200グラム単位のアルミ蒸着パックに密封されて販売されるのが普通となりました。手間がかかりますから、200gの小売価格は500円から1200円、これが“常識”となりました。“生豆”のままですと、2年でも3年でも、アルカリ性を保ったままで、採れ立ての状態を維持できます。密封や冷蔵といった、特別な保存方法は不要です。ですから、纏めて購入できます。纏めてなら、カルロスさんから、中村さん経由で消費者に直接届けることができますから、原価は高くても消費者の購入価格は一般品と同等以下にすることができます。「美味しくて、安全で、身体に良い」コーヒーを一般品と同等以下の安さで実現できるのですから、消費者は嬉しいし、カルロスさんも嬉しい‥‥ということになります。これを実現するためには、できのいい珈琲焙煎器が必要だった‥‥というわけです。  

 
出来上がったコーヒー焙煎器の1号機を、カルロスさんと中村さんにプレゼントしました。二人とも大喜びしてくれました。いい人が困っていたら発明して何とかして差し上げるのが私の趣味、違った、仕事ですから、私も喜びました。コーヒー大好き人間になった私の妻も喜びました。

 

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