
(a)200年前の英国製の時計
(所蔵&撮影 by Fujimura) |

(b)150年前の英国製の時計
(所蔵&撮影 by Fujimura) |
(c)50年前の日本製の鳩時計
(所蔵&撮影 by Fujimura) |
■温度差をエネルギーにして動き続ける時計
ゼンマイを巻かないでも、錘を吊り上げないでも、永久に動き続ける時計があります。スイスの高級時計メーカー、ジャガー・ルクルト社が1928年に発表したアトモスという有名な温度差時計です(図31)。この時計は周囲の温度差をエネルギーにして動き続けます。300c㎥ほどの金属のドラムには空気が閉じ込められています。周囲の温度が変化すると空気の温度も変化して膨張・収縮します。特殊なベローズ(蛇腹)でこの膨張・収縮を直線運動に変え、それを回転運動に変えてゼンマイを巻きます。1日に1℃の温度差があれば2日間は動き続けるというスグレモノです。「精密技術の極み」と言ってもよさそうな精巧な作りです。一番安いモデルでも40万円以上、一番高いモデルは2,000万円というから、値段も半端ではありません。「1日に1℃の温度差で2日」というのは、俄かには信じがたいことですから、アトモスを手に入れて確かめてみました。本当でした。
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ジャガー・ルクルト製のATOMOS
(所蔵&撮影 by Fujimura) |
■時計のねじまき屋さんが教えてくれること
時計のねじ巻き屋さんが新潟県加茂市にいらっしゃるのだそうです。2003年2月10日の朝日新聞(夕刊)「信頼のねじ巻き屋」という記事で紹介された中林信治さん(84)です。加茂市は桐ダンスの生産で知られる人口3万3千人の町。記事によれば、中林さんの店は105年ほど前にお父さんが加茂市で創業した時計屋さん。お得意さんの時計の出張ねじ巻きを、終戦の翌年からずっと続けているのだそうです。得意先は多いときは600軒ほどありましたが、最近は高齢のために100軒くらいに絞っているそうです。仕事は週に3,4日。古い時計は8日巻きが多いので、照ろうが降ろうが8日以内に(脚立を担いで)行きます。58年の間に休んだのは洪水の時と自動車事故にあった時の1週間だけだそうです。ねじ巻きのついでに時刻合わせや調整までします。料金は半年で2千円程度。中林さんが引退すれば、古時計はたちまち使われなくなるかもしれない。街のひとは、少しでも長く仕事を続けてもらいたいと願っているそうです。こういう街があるのですね。いい街だな、いい話だな‥‥と、この記事を見て思いました。 |